[2001年8月23,30日 (VOL.34 NO.34,35) p.21]

特別企画
PGI2誘導体の新たなるapproach
(9)――F-Pバイパス術と術後薬物療法――

下肢閉塞性動脈硬化症に対するベラプロストナトリウムの多彩な有効性

西部俊哉氏宮崎慶子氏
 下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO)の有効な治療法の1つである大腿膝窩動脈(F-P)バイパス術におけるグラフト開存性などの問題について,北海道大学循環器外科(安田慶秀教授)の西部俊哉氏,宮崎慶子氏らが検討を行い,経口プロスタグランジンI2(PGI2)誘導体製剤ベラプロストナトリウム(BPS)を投与した患者群で生存率が有意に延長されていたという興味深い結果を報告している。同報告の概要とともに,ASO治療におけるBPSの有用性について両氏に伺った。

F-Pバイパス術は下肢閉塞性動脈硬化症に対して有効な治療法

 F-Pバイパス術は,下肢のASOに対する有効な治療法である。宮崎氏によると,この血行再建術は,血流障害の重症度を示すFontaine分類の病期III度(安静時疼痛)やIV度(潰瘍・壊死)に該当する重症虚血肢に適応となる。また,同分類II度の間欠性跛行でも,患者のQOLを考慮して,日常生活に著しい支障がある場合には手術が考慮されるという。
 今回,両氏らは,1990年 1 月から99年 8 月までの約10年間に膝上F-Pバイパス術を受けた患者496人564肢を対象に,手術で用いられたePTFEとポリエチレンテレフタレート(Dacron)の 2 種類の人工血管の開存率と開存性に影響を与える因子,また患者生存率とその影響因子をレトロスペクティブに検討した。手術適応となったのは間欠性跛行77%,重症虚血肢23%であった。
 検討結果の概要は次の通りである。まず,術後 5 年におけるグラフトの 1 次開存率はePTFE73.3%,ポリエチレンテレフタレート68.9%と有意な差はなかった。ロジスティック回帰分析によると,手術時年齢が65歳以下の若年であること,喫煙歴を有することが開存率を低下させるリスクファクターであった。また,全患者の 5 年生存率は78.8%で,脳梗塞と慢性腎不全の既往がリスクファクターとなり,生存率を低下させた。

血行再建後の補助療法として推奨される抗血小板療法

 今回検討した症例では,血行再建後の補助薬物療法として,抗凝固薬62.5%,抗血小板薬71.3%,ベラプロストナトリウム(BPS)43.1%,その他の薬剤17.7%が用いられていた。75.9%の患者は複数の薬剤を併用しており,薬物療法を受けなかった患者は7.1%であった。
『下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針』(J Vasc Surg 31(Suppl 1 Pt 2): s1-s278, 2000)によると,術後の補助薬物療法の目的は(1)血栓症による初期の失敗(2)血管内膜過形成による中期のグラフト閉塞(3)アテローム硬化症の進行−を減少させることにある。このため,補助療法ではまず,血栓症を抑制する抗血小板療法が推奨されているという。
 抗血小板薬の術後投与はグラフト閉塞のリスクを低下させるとされるほか,F-Pバイパス術後に用いる抗血小板薬と経口抗凝固薬では臨床的な差はないという報告もある。また抗凝固薬について,西部氏は「定期的な血液検査が必要となるなどコントロールが難しく,重症虚血肢以外では術後継続して用いられるケースは減っている」と述べた。
 今回の検討でも,グラフトの開存率に関しては,抗凝固薬,抗血小板薬投与による差は認められなかった。

ベラプロストが患者生存率に好影響

 検討結果のうち,「最も注目したいデータ」と西部氏が指摘するのは,BPSだけが患者の生存率に好影響を与えた点である(表)。これらの数値は,まずケースコントロール研究を行い,p値が0.25以下の変数に対して年齢,性別を加えてロジスティック回帰分析を行った結果である。他の薬剤は,ケースコントロール研究の段階でp>0.25であったため,ロジスティック回帰分析には加えなかったという。
 この結果について,宮崎氏は「BPSは強力な血管拡張作用と抗血小板作用を持ち,内膜の過形成抑制効果もある。今回の検討では,死亡例の33.3%が心血管,脳血管疾患を死因としており,BPSがこれらのイベントを抑制したと考えられる」と指摘した。

ベラプロストの間欠性跛行への有効性を示したBERCI-2試験

 また西部氏も,BPSの間欠性跛行に対する有効性を検討したBERCI-2試験の結果(Circulation 102: 426-431, 2000)を紹介し,BPSの有用性を解説した。
 同試験は,跛行出現距離が50〜300mの間欠性跛行患者549例を対象にしたプラセボ対照多施設二重盲検試験である。初めにプラセボを 4 週間投与した後,BPS 40eg,またはプラセボを 1 日 3 回 6 か月間投与した。その結果,6 か月後のトレッドミル負荷試験で跛行出現距離がベースラインより50%以上延長し,かつ試験中に重大な心血管イベントが認められなかった「成功」例の割合は,BPS群で43.5%となり,プラセボ群の33.3%よりも有意に高かった。またBPS群では,最大歩行距離と跛行出現距離の平均値が,6 か月の投与期間中常にプラセボ群よりも長かった(図)。さらに,重大な心血管イベントの発生率についても,プラセボ群では8.9%であったのに対し,BPS群では4.8%と半分程度に抑制されたことが明らかにされた。

閉塞性動脈硬化症治療で多彩な効果を発揮するベラプロスト

 以上のように,BPSは間欠性跛行を改善し,心血管イベントの発生を抑制する。西部氏は「BPSは,術後の補助療法として効果的な薬剤と位置付けられるだけでなく,間欠性跛行そのものの治療にも有効であることが明らかにされた。また生命予後を延長させる作用を併せ持つことなどから,臨床上有用な薬剤であると言える」と強調した。
 西部氏はまた,今回の検討結果を受けて「F-Pバイパス術では,グラフトを開存させることももちろん大切だが,ASOで最も重要なのは生命予後を伸ばすということ」と総括するとともに,術後の補助療法についても「グラフトの開存を目指しながら,同時にASO自体に有効な薬剤を用いる必要があるだろう」と話している。

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